BRICSプラスの拡大は、世界経済の勢力図における重要な転換点を示しています。高まる貿易摩擦や地政学リスクへの戦略的な対応策として、多様な新興市場の統合、協力関係の深化、そして貿易ルートの多様化を通じて、サプライチェーンの強靭性を高め、リスク分散に寄与します。さらに、所得水準の上昇と需要の変化によって、BRICSプラスの活発な消費市場は今後大きな成長の可能性を秘めています。
経済・サプライチェーンにおけるBRICSプラスの存在感が急上昇
ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国の5カ国に、エジプト、エチオピア、イラン、UAE、インドネシアが追加加盟。さらに9カ国が新たにパートナー国として加わったBRICSプラスの拡大は、世界経済秩序における大きな転換を示しています。2040年には世界GDPの30%を占めると予測されており、資源が豊富で戦略的に重要な地域に位置する加盟国の存在は、今後のサプライチェーン構築、国際協力、経済成長、消費需要の在り方に大きな影響を及ぼすと考えられます。
世界の貿易や影響力が徐々に東や南にシフトし、BRICSプラスとの連携を模索する国が増える中で、同グループの経済的・政治的・人口的な影響力はさらに高まるでしょう。製造業、インフラ、デジタルイノベーションといった分野で新たな事業機会が広がる一方、大規模かつ急速に進化する消費市場への参入機会も広がります。これらの変化を踏まえ、企業はサプライチェーンの再編を見据え、BRICSプラスを多極化する世界経済における重要な柱として捉える必要があります。
所得増と人口構成の変化が新たな消費大国を形成
2040年までに、BRICSプラスの人口は世界人口のほぼ半数となる約41億人に達すると予測されています。この人口的なダイナミズムにより、加盟国は世界の消費と労働力の中心地としての存在感を一層強めています。
2040年までに加盟国の年間消費支出が約25兆米ドルに達し、G7の3倍のスピードで成長する見込み
出所:ユーロモニターインターナショナル
インド、インドネシア、エジプト、エチオピアといった急成長中の国々では、中間層の拡大や都市化の進展が新たな消費のエンジンとなっており、消費の中心地として注目が高まっています。
若年層が多く、デジタルに精通した人口構成は、小売、モビリティ、住宅、医療、デジタルソリューションなど、さまざまな分野における需要拡大を後押ししています。これにより、これまで成熟した欧米市場を重視していた企業は、成長著しい新興市場へと戦略を再構築し、バリュー(価値)とボリューム(規模)の両面での成長機会を狙う必要があります。
ただし、これらの市場は一枚岩ではありません。大きな所得格差や価格への敏感さが根強く残るため、「手頃さ」と「憧れ」「品質」とのバランスを取るローカル戦略が欠かせません。現地の文化に即した商品開発、パートナーシップの構築、ローカル人材への投資、そして地域コミュニティとの信頼関係づくりが、成功のカギを握ります。
二国間貿易の急増と統合の深化がサプライチェーンの多様化を促進
BRICSプラス内の域内貿易はこの20年間で10倍に拡大し、2024年には2.5兆米ドルに達しました。これは、加盟国間の統合が進み、新たな貿易ルートが形成されていることを示しています。BRICSプラスには正式な自由貿易協定は存在しないものの、規制の簡素化や市場参入障壁の緩和に向けた取り組みにより、今後も貿易・投資の流れはさらに加速する見込みです。
さらに、加盟国の多くがRCEP(東アジア地域包括的経済連携)、AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)、MERCOSUR(南米南部共同市場)など、地域貿易圏との連携を進めており、新興市場への戦略的なゲートウェイとしての役割も果たしています。これにより、グローバルな不確実性の中でも供給網の多様化と回復力の向上が期待され、西側市場への過度な依存からの脱却や、貿易摩擦・関税リスクの軽減が可能になります。
また、加盟国の経済が相互に連携を深め、付加価値の高い産業へと発展する中で、製造業、デジタルテクノロジー、グリーン・イノベーションといった分野で多様なビジネス機会が生まれています。さらに、「一帯一路」構想(Beld and Road Initiative)や戦略的パートナーシップ、そして新開発銀行(NDB)などの国際機関の支援を通じて、インフラ、エネルギー、都市開発、付加価値型製造の分野での展望も広がっています。
とはいえ、保護主義政策、ガバナンスの課題、地政学的緊張、ドル依存、為替の不安定性といった内在的なリスクは依然として存在します。こうした不確実性の中で成功を収めるためには、堅牢な事業計画と柔軟な戦略によって回復力を高め、世界経済の再編という新たな時代に適応していくことが求められます。
詳しくは当社レポート『BRICS拡大:インパクトと市場機会』をご覧ください。世界経済の不確実性が高まる中で、戦略的チャンスと課題を把握し、新興成長拠点におけるサプライチェーンの変化を先読みするヒントをご紹介しています。