およそ一年前に筆者が執筆した記事でも触れた通り、日本における大麻に関する法規制は、ここ数年で大きな変化を迎えています。特に2023年には、大麻取締法の改正案が打ち出され、使用罪の新設や、医療用CBD製剤であるエピディオレックスの承認が正式に示されました。改正法は当初予定されていた2024年10月から延期されたのち、12月12日に施行されましたが、CBD市場の成長に対する期待は、2024年は一時的に鈍化しました。本記事ではその理由と現状、そして今後の市場の展望について解説します。
[用語解説]
- カンナビス:植物分類上の大麻草の英名。
- カンナビノイド:大麻草に含まれる物質群の総称で、主にテトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)の2つが知られている。
- テトラヒドロカンナビノール(THC):脳内の受容体に作用して精神活性を引き起こすカンナビノイドで、 大麻(マリファナ)の主成分として知られる。
- カンナビジオール(CBD):カンナビノイドの一種で、THCとは異なり精神活性作用を起こさない。カンナビジオールは、一部の国では医療用途に承認されているエピディオレックスという薬の主成分でもあり、近年は健康食品としても注目されている。
CBD市場の現状と成長予測
2024年5月、厚生労働省はCBD製品におけるTHC残留基準を発表しました。具体的な内容は以下の通りです。
- オイル:10ppm
- 食品:1ppm
- 飲料:0.1ppm
しかし、業界関係者からはこれらの基準がカンナビノイドの劣化や化学反応、または検査結果間のばらつきを踏まえると製品化には懸念が残るとの反発が寄せられ、結果的に企業は新規参入や商品の取り扱いに慎重な姿勢を見せるようになり、CBD市場の成長を妨げる要因となっています。
それでも、2024年の日本の合法CBD市場は前年比16.2%増の244憶円に達するとユーロモニターでは予測しています。弊社では、2024年時点で約53万人の利用者がいると推定しており、この成長は昨年の調査結果よりもトーンダウンしていますが、2025年以降はTHC残留限度値や流通・販売ガイドラインが明確になることで、再び成長が期待されています。
※CBD市場:処方箋を伴わない、CBDやその他の非精神活性カンナビノイドを使用した製品を含む市場。ベイプ、チンキ剤、オイル、スプレー、飲料、食品、カプセル、外用剤、プリロールが対象。THCを全く含まないか、法的許容限度を下回る微量のTHCしか含まない。THCもCBDも含まず、CBG、CBN、CBC等のカンナビノイドを添加した製品もここに含む。
市場動向の製品の多様化
現在、CBD製品はベイプ式が主流ですが、近年では筋肉痛や肩こりの緩和を目的とした外用剤が市場シェアを拡大しています。これらは初心者にも扱いやすく、効能を実感しやすいことから、今後の成長が期待されます。また、舌下で使用するチンキ剤も用量調整が容易ですが、こちらは多くの消費者にとってまだ馴染みのない使用方法のため、ニッチなカテゴリに留まる見込みです。
大正製薬がCBDサプリメント市場に参入したりするなど、カプセル・錠剤タイプも注目されています。品質管理や食品表示の課題は残るものの、機能性食品としての承認が拡大することで成長が見込まれています。さらに、飲料タイプやグミなどの食用タイプも手軽で安価なことから市場拡大が期待されていますが、今後のTHC残留基準が障壁とならないか注意が必要です。
違法大麻市場の現状
一方で、2024年の日本の違法大麻市場は、前年比2.2%増の約640憶円に達しています。法改正が抑止力となることが期待されていましたが、12月にずれ込んだことで、違法市場の縮小は限定的でした。特に、30代以下が逮捕者の7割以上を占める現状は変わっていません。
乾燥大麻だけでなく、液体、オイル製品、グミなどの食用タイプといった多様な形式での取引が増加しており、健康被害報道も見受けられます。このように、多くの消費者が違法大麻製品にアクセスしやすくなっている現状も、法改正による取り締まりの厳格化と合法市場の活性化によって歯止めがかかることが期待されています。
まとめと今後の展望
2025年の日本における大麻市場は、法規制の変化と市場動向が交錯する複雑な状況にあります。CBD市場は依然として成長が見込まれていますが、THC残留基準の厳格化や、製品の品質管理に関する課題が業界には残ります。一方で、違法大麻市場は緩やかな増加を続けており、特に若年層における消費が問題視されています。消費者の健康と安全を守るためには、適切な規制と啓蒙活動が不可欠です。
日本のCBD市場が持続的な成長を遂げ、消費者にとっても魅力的な選択肢となるためには、業界全体の透明性が高まり、消費者が安心してCBD製品を利用できる環境が十分整うことが条件となるでしょう。ここ数年、リラクゼーション効果や抗炎症作用への期待で注目を浴びているCBD製品ですが、大麻草由来ゆえに危険視されているのが実情でした。今回の法改正によって、医療への有効活用の選択肢が広がり、一般消費者向けの製品もTHCを高濃度に含む製品は規制対象となる反面、この基準をクリアした製品は明確に安全という指標が確立することで、市場の活性化が期待されます。
より詳細な市場統計および分析については、レポート「Cannabis in Japan(日本のカンナビス市場)」をご覧いただくか、弊社までお問い合わせください。